新型コロナウイルス予防対策として重要な消毒用アルコールがどこにも売っていない。
マスクが入手困難なので、一度使ったマスクに消毒用アルコールを吹きかけて3日間放置。これをローテーションで使い回せば数少ないマスクでも何とかなる。ところが、アルコールが手に入らない。消毒用アルコールの残量が少なくなってきました。
そこで、ホワイトリカー(35度)を精製して、高濃度のアルコールを抽出することにしました。
消毒に使う高濃度エタノール製品は65〜80%の濃度です。ホワイトリカーをこの程度に蒸留すればよいことになります。
何パーセントにすればよいのか?
35度のホワイトリカーを65度に精製するには
エチルアルコールを消毒用として使う場合、「 60~95%の濃度範囲であればその殺菌・消毒力にはほとんど差がないと言われています。 」1) 逆に、100%のエタノールでは殺菌・消毒効果はない!
えっ、何で? 濃度100%の方が殺菌効果が高いのでは? と思いますが、それは水の存在が関係しているようです。詳しく知りたい方は出典先をご覧下さい。
そこで、65%程度を目指して蒸留することにします。
金属容器(コーヒーボトルの空き缶)にホワイトリカーを入れ、容器上部をパイプでつなぎ、パイプの途中を水で冷やし、蒸気を液体に戻し、エタノールを抽出する。原理は大体こんな感じです。
エチルアルコールの蒸留の装置と方法
ホワイトリカー(35度) 1800ml 1パック
ボトル式缶コーヒー空き缶 1個
シリコンホース(-30~150℃、内径3mm 外径5mm) 2~3メートル
湯煎用鍋 1個
冷却用水桶 1個
精製されたアルコール貯蔵容器 1個
【作り方】
1.コーヒー空き缶のスクリューキャップに穴を開け、シリコンホースを入れる。差し込み長さは1cm程度。穴が大きいと蒸気が漏れるので、シリコンホースぎりぎりのサイズの穴を開けること。シリコンホースを穴に通したとき隙間ができる場合は、グルーガンなどで隙間を充填する。
2.コーヒー缶にホワイトリカー400ccを入れ、水を張った鍋にセット。シリコンホースの途中は水を張った桶に浸す。ホースの先端は精製されたアルコールを受ける容器に入れる。
3.鍋を火にかけ、強火で加熱する。鍋の水が沸騰し、缶の中のホワイトリカーが熱くなると、シリコンホースの先端から勢いよく蒸気が噴き出してくる。
この図で、「コンロで弱火で加熱」とあるのは「強火で」の間違いです。弱火だといつまで経っても抽出が終わりません。
空きボトルの蓋にきれいに穴を開けるには、インクカートリッジ詰め替え用セットに付いてきた穴開けを使うとうまくできます。
気化と蒸発
ホワイトリカーから高濃度アルコールを抽出するために蒸留法を用います。
原理的には、水とエチルアルコールの沸点の違いを利用して、両者を分離するのですが、実際にはこの方法では完全に分離できません。
水の沸点は100℃(厳密には99.974度)でエタノールの沸点は78.37°Cです。
両者には22℃程度の違いがあるため、液体の加熱により、先にエタノールが気化するため、簡単に分離できそうですが、実際にはどうでしょうか。
水は100℃で沸騰して気体になる。誰もがそう思いますが、実際には違います。
お風呂の湯気って何? 水が気化したものです。40℃程度のお風呂でも水が大量に気化していることを我々は知っています。これは、水の蒸発と説明されます。
上の装置では、エタノールが気化すると同時に、水の蒸発も起こっています。このため、完全にエタノールだけ抽出することはできないのです。
たとえば、蒸留水を作る場合、これと同じ装置が使われます。つまり、水の蒸留にも使われる装置ということです。
水とエチルアルコールを分離するつもりが、単に、不純物を取り除く蒸留をしていただけ、ということにもなりまねません。
実際にやってみた
缶コーヒーの容器は400ccのもの。缶コーヒーの容器の肩の辺りまでホワイトリカーを入れ、湯煎にかけます。
やってみて分かったことは、缶がお湯に浮いてしまうこと。蒸留が進むと缶の中身が減ってくるために、軽くなり、お湯に浮いてしまう。浮くとホースが外れる。
このため、菜箸でシリコンホースをはさみ、菜箸の両側を輪ゴムで縛り、シリコンホースがつぶれないようにスペーサーを入れて鍋にセット。こうすると缶が動かなくなります。
最後の蒸留液を溜める容器にシリコンホースを固定するために、洗濯ばさみを使いました。蒸気が出始めると、ホースがかなり暴れ出します。
蒸留を開始して、120cc程アルコールが抽出できた時点で終了。
缶には400ccしか入らないので、4回に分けて蒸留しました。
しかし、計算が合わない。ホワイトリカーのパックは1800cc入りです。400cc x 4回で1600cc。あと200cc残るはずなのに残らない。
たぶん、缶は450ccくらい入るということなのでしょう。
精製できたアルコールは、500ccでした。残った液を使ってもう一度精製しましたが、それほど多くは抽出できません。無理すると単なる水の蒸留になってしまうので、ほどほどのところでやめました。
しかし、500ccかぁ。35度のホワイトリカー1800ccの中には630ccくらいアルコールが含まれていますが、やはり、全量は抽出できない。
蒸留がすんで残った液を舐めてみると、かなり強くアルコールを感じます。感じとしては15~20%程度でしょうか。
蒸留にかかった時間は、合計で約2時間です。
ホワイトリカーの価格(1800円くらい)には高額な酒税(700円くらい)が含まれます。さらに消費税まで支払って購入することになります。それを使ってガス代までかけて消毒用アルコールを抽出するなど馬鹿げたこと。でも、他に手段がないのでは仕方がありません。
ついでに「水蒸気蒸留法」をご紹介
ここで、管理人の知識をご紹介。
下の画像をご覧下さい。
これは、管理人がペティグレンという香油(エッセンシャルオイル)を精油する工程を撮影した写真です。精製方法は、「水蒸気蒸留法」です。
奥に見える風呂桶のような容器には、柑橘系の樹木ペティグレンの葉が大量に入っています。これを蒸すことで、香油を抽出しています。
ここで着目すべきは、風呂桶のような容器から出ているパイプの長さです。パイプの周囲には水を張った溝があります。蒸気を冷却するためです。
ここで強調したいことは、このパイプの長さは約4メートルもあるということ。パイプの中の蒸気を液体に戻すには、このくらいの長さが必要だと言うことです。
【参考資料】
1) 「消毒用アルコールの濃度について」
2) 「新型コロナ対策】自宅でできる消毒用アルコールの手作り方法の公開と自作キットの販売開始」、Dream News、
3) 「アルコールを飛ばすのはそれほど簡単ではない
4) 「膜による水とアルコールの分離」、削除されたページ
5) 「消毒用アルコールと同じ度数の「お酒」続々 新型コロナ対策で」