「科学」という日本語は中国に輸出された和製漢字だった!


公開日:2020年5月19日  最終更新日:2020年7月26日

最近、ネット上のニュースを見ていると、中国の話題が多いように思います。当サイトでも頻繁に中国の話題が登場します。その内容は、「池田七帆」さんという中国のコスプレーヤーについてですが(笑)。

七帆さんのブログを翻訳しているとき、中国語の漢字について興味が湧きました。

今日は、「漢字」と日本語についての記事を書こうと思います。

漢字は、もちろん中国伝来の文字ですが、中国で使われている漢字と日本で使われている漢字とでは大きく異なるものがあります。

「科学」という単語。これは、日本語ですね。中国語では何と表記するのか調べてみると、やはり「科学」です。


出典: weblio 中国語翻訳

なお、Google翻訳では、日本語の「科学」は中国語では「理科」と表示されます。これは誤訳ですね。

現在、中国で使われている「科学」という単語は、実は和製漢字で、日本で生まれたものです。それが中国で使われるようになりました。

カラオケ(卡拉OK)やアニメ(动画)などの単語が中国で使われていることは知っていても、「科学」という漢字が日本で生まれたものだと知っている人はほとんど皆無ではないでしょうか。

日本人100人に聞いても、誰も知らないと思います。

今日は、そんなお話です。

誰も知らない志筑忠雄

志筑 忠雄」という人物をご存じでしょうか。

ほとんどの日本人が知らない人物ではないかと思います。管理人はテレビ番組「ガリレオX」6) で彼の名前を知りました。

有名人? 哲学者? そんな印象を受けるお名前です。しかし、志筑忠雄は、江戸時代後期に活躍した長崎の蘭学者、オランダ語通訳です。

志筑忠雄についてネットで調べても彼の業績を的確に記述しているものがほとんど見当たりません。

志筑忠雄が創り出した日本語の用語には次のようなものがあります。

科学、重力、真空、遠心力、鎖国、など。

これは、オランダ語で書かれた文献を日本語に翻訳する過程で、その概念を説明しようとするときに、「漢字」という表意文字を用いて表現した苦心の造語のようです。

中国語の文献では、その概念にどのような漢字をあてはめているのか、現代であれば容易に調べることができますが、18世紀、鎖国体勢をとる江戸時代では無理な相談。

しかし、志筑忠雄は独自にオランダ語の概念意味を理解し、それを漢字にあてはめ、それまでになかった新たな日本語を創り出しました。これまでにない新たな概念を説明するためには、表意文字である「漢字」を用いる必要があったのです。

ちなみに、「宇宙」という漢字は古代から中国、そして日本でも使われていました。しかし、その概念は、志筑の考え、そして現在我々が使う「宇宙」とは異なるものです。

志筑については、長々と経歴を紹介するよりも、以下の年表を見るのが手っ取り早いと思います。

志筑忠雄年表

西暦 年齢 和暦 記事
1760 0 宝暦10年 長崎で三井の用達を業としていた三代中野用助の五男として生まれる。
1776 16 安永5年 稽古通詞となる。
1782 22 天明2年 少なくともこの頃までは稽古通詞を務めていたらしい。
「万国管闚」執筆。 大航海時代のいくつかの旅行記から和訳抜き書きした雑記帳。日本で初めてコーヒーについて言及したと言われる。
1786 26 天明6年 同職を務めていた可能性も指摘されている。
1798 38 寛政10年 「八円儀及其用法之記」1798年 – Cornelis Douwes: Beschryving van het Octant.(1749年)の和訳。
1801 41 寛政13年 「鎖国論」1801年 – エンゲルベルト・ケンペル(1651年 – 1716年、ドイツ人医師)著『日本誌』(1727年)のオランダ語版Beschryving van Japanの1733年第2版の付録第6章「Onderzoek, of het vanbelang is voor’t Ryk van Japan om het zelve geslooten te houden, gelyk het nu is, en aan desselfs Inwooners niet toe te laaten Koophandel te dryven met uytheemsche Natien’t zy binnen of buyten’s Lands.」(日本国において自国人の出国、外国人の入国を禁じ、又此国の世界諸国との交通を禁止するにきわめて当然なる理)を訳出したもの。この和訳によって「鎖国」という言葉が誕生したと考えられている。
1802 42 享和2年 「暦象新書」(上編、中編・下編)98年から1802年 – 原著はジョン・ケイル(John Keill, 1671年-1721年)の『真正なる自然学および天文学への入門書』(Introductiones ad Veram Physicam et veram Astronomiam)(1725年)のオランダ語版Inleidinge tot de waare natuur-en sterrekunde, of de natuur-en sterrekundige lessen van den heer Johan Keill … : waar by gevoegt zyn deszelfs verhandelingen over de platte en klootsche driehoeks-rekeninge, over de middelpunts-kragten en over de wetten der aantrekkinge(1741年)の翻訳。アイザック・ニュートンやヨハネス・ケプラーの生んだ法則や概念、+、-、÷、√といった記号を日本に紹介し、「遠心力」、「求心力」、「重力」、「加速」、「楕円」という語を生んだ書。
1805 45 文化2年 「三種諸格」 – 1803年後半から1805年2月の間に成立。オランダ語における名詞の性と格を中心に文法を説いた書。各種オランダ語文典に基づいて編まれた。
1805 45 文化2年 蘭学生前父」 – 1803年後半から1805年2月の間に成立。実例を交えながらオランダ語文の和訳法を説いた書。翻訳の理念面に荻生徂徠を、実践面に本居宣長の言語学を援用している。漢文まがいのいわゆる「欧文訓読」的な翻訳を批判し、初めてオランダ語をオランダ語として理解し、その性質を分析した上でその適切な和訳を説いた、日本史上初の「欧文和訳論」である。
1806 46 文化3年 「二国会盟録」1806年 -プレヴォ『旅行記集成』の蘭語版(Abbé Prévost: Historische Beschryving der Reizen. 1761)の中から、ネルチンスク条約締結現場に同行したジェルビヨン(フランス人宣教師)の紀行文を訳出したもの。
1806 46 文化3年 1806年8月16日(文化3年7月3日)死去

ちなみに、中国では、西洋の概念を漢字で表記します。日本では、「意味」に関しては「漢字」が、「音」に関しては「カタカナ」が用いられます。横文字を表記するのにカタカナが使われるのはこのためです。

しかし、カタカナ表記の「音」は、いわゆる表音文字であるため、その文字を見ても意味が分かりません。「オーバーシュート」、「ロックダウン」? 何のことかさっぱり分かりません。

現代であれば、外国語の音をそのままカタカナ書きして表現します。小池都知事がよく使うカタカナ語です。

ところが、カタカナ語で表現すると、音だけを借りているので、文字を読んでも意味が分かりません。

「クラスター」=集団感染?  ⇒ 産業クラスターなら知っているけど。
「オーバーシュート」=感染爆発?  ⇒ バスケットのクロスオーバーシュートなら知っているけど。
「ロックダウン」=都市封鎖? ⇒ lock down って英語は、「封鎖」という意味で、他にも使うし。工場閉鎖?
「ステイホーム」 ⇒ パックンによれば、「ステイセーフ」という英語の方がお薦めのようです。
「ソーシャル・ディスタンス」 ⇒ これは英語の誤用で、正しくは「ソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)」>間違った英語を使うのはやめましょう。

このように、カタカナ英語を並べられても意味が分からない。英語を知っていても、それが「医療」という特殊な分野で使われる用法だと知らなければ、何のことなのかさっぱり分かりません。

日本語 中国語(簡体字) 中国語(繁体字)
引力 引力 引力
真空 真空 真空
重力 重力 重力
遠心力 离心力 离心力
宇宙 宇宙 宇宙
鎖国 闭关锁国 闭关锁国

中国由来の漢字だけれど、漢字はすでに日本語になっている

中国に旅行すると困るのが、中国本土では簡体字を使っているため、中国の漢字を見てもさっぱり意味が分からないこと。

管理人が小中学校の生徒だったとき、国語の授業では、漢字の「偏(へん)」と「旁(つくり)」を学び、その成り立ちも学びました。書き順を覚え、だから、漢字の画数が数えることができ、漢和・解字辞典などが使えます。

テレビドラマ『金八先生』で武田鉄矢さんが演じる金八先生が、漢字について説明する名言が有名です。

たとえば、

「息子。 親にとって、「息子」とは、「自分の心の子」と書くんだよ。」

なるほどと思ってしまう日本人。でも、中国人には意味が分からない。

簡体字の「息子」は「儿子」と表記するからです。

そもそも、日本語で使う漢字の簡略化は、時間をかけて審議された上で成立したものです。これに対し、中国の簡体字は、中国では『民間で通俗的に用いられている簡略法』を重んじたことで、もともと同じ『つくり』だったものがバラバラに簡略化され、体系的に大きな混乱を生んだ」とされています。 3)

こんな事ができる言語は他にない

下の画像を見て、あなたは何と読みますか?

答えは、「みつけろ」。

答えは、「かなえろ」。

一見すると「夢」という漢字に見えます。たぶん、中国人の方は、「夢」と読むでしょう。しかし、日本人だけが、「みつけろ」や「かなえろ」と読むことができる。

この作品は、ことば漢字創作家の「いとうさとしさんが創り出したものです。

なぜ、こんな事ができるかというと、日本語の文字の持つ柔軟性にあると思います。(日本語としての)漢字、ひらがな、カタカナ、さらにはローマ字という四つの文字を駆使すれば、できないことはないのではと思えてきます。そして、日本人なら、誰でも読むことができる。

下の画像。あなたは何と読みますか?

答えは、「御礼!いつもありがとう!」

答えは、「謹賀新年 あけましておめでとうございます」

これって凄いと思いませんか? 漢字の意味に即したひらがなだけで表現している。カタカナが使われていない。つまり、まだまだ日本語としての拡張余力があることを示しています。

「くずし字」が美しいわけ

明治以前の古文書を閲覧していると、思わず見とれてしまうような美しい文書に出くわします。


Image: 源氏物語(中院文庫)「桐壺」冒頭

明治時代にひらがなの表記方法が統一され、それまでに使われていたひらがな表記は「変体仮名」として区分けされ、次第に使われなくなります。

たとえば、ひらがなの「し」は、下のようにたくさんの表記がされていました。

古文書を読もうとすると、ひらがなが読めない。それは、一つのひらがなにたくさんの変体仮名が使われているからです。

同じ文章でも、同じひらがなに数種類の変体仮名をあてています。たとえば、ひらがなの「し」にたくさんの変体仮名をあてているのです。

なぜ、このような書き方をするのかずっと不思議だったのですが、この謎が分かりました。

2020年5月10日放送の「COOL JAPAN」, 「文字からCharactor~」NHK BS1、でこの説明がありました。

くずし字で文章を書く場合、それがいかに美しく見えるかを工夫した書き方をしたのが原因のようです。

まさに美の追究。

変体仮名はそれぞれ元となった漢字が存在します。それを「字母」と言います。

文章を書くときに、いかに同じ字母の仮名を使わずに見た目が美しい文章を書けるかが書き手の腕の見せ所。

文章の流れの中で、どの字母の仮名を使えば美しく見える文章になるのか、常に計算して書く。

どの字母の仮名を使うかは書き手の自由。しかし、筆で書く上で前後の文字との関係(運筆)から、使える字母が制限される場合もあります。同じ歌を書くときは、できるだけ同じ字母の仮名は使わない、という書道のルールのようなものがあるようです。

さて、中国のくずし字・草書はどんな風に書かれているのでしょうか。


Image: Wikipedia, 行草書羅漢賛等書巻 明末期(1603年) 董其昌筆 東京国立博物館蔵、 (釈文)癸卯参月 在蘇之雲隠山房 雨窓無事

中国明代の有名な書家の方の文字なのでしょうが、管理人には美しくは見えません。

平安時代以降のくずし字の文章のゾクゾクするような美しさは、中国の書からは感じられません。

あとがき

今回は、日本語の文字について、全く別の視点から書いてみました。

英語の国語化を提唱したことで知られる明治時代の外交官森有礼(もり ありのり)のことが頭をよぎります。彼のことは本サイトでも明治の女子留学生の記事で何度か登場します。

もし、明治政府が英語を国語にすると決定していたら、現代の小中高の生徒たちは大喜びです。煩わしい漢字を覚える必要もないので。さらに、英語の学習で苦労することもない。

しかし、その代償は大きく、源氏物語は全く読めない。俳句も詠めない。現在まで伝わる日本の文化の多くは消滅していたことは間違いないでしょう。

漢字は中国から伝わりましたが、その伝統を維持しているのは日本だけ。日本の漢字の音読みの中には、古代中国の発音をそのまま現代に伝えているものがたくさんあります。しかし、中国ではそれを専門にする人以外は誰も知らない古代の読み方なのです。

なぜ、日本だけこのようなことになっているのかというと、外国の文化は、それ以前の文化を書き換えることで成立するのに対し、日本の文化は、重層的で、書き換えずに共存する方法を採用しているからのようです。

いろいろ考えさせられる記事となりました。

出典:
1. ことば漢字傑作集 いとうさとしの「おもしろ字」ことば漢字傑作集 いとうさとしの「おもしろ字」
2. ことば漢字創作家★いとうさとしことば漢字創作家★いとうさとし
3. にこにこニュース、「日本と中国の漢字、なんでそれぞれ違う簡略化をしちゃったの? しかも日本のほうが合理的だった・・・=中国メディア日本と中国の漢字、なんでそれぞれ違う簡略化をしちゃったの? しかも日本のほうが合理的だった・・・=中国メディア
4. 「宇宙という言葉はどこから来たの?宇宙という言葉はどこから来たの?」、週間アスキー、2013年11月1日
5. 「COOL JAPAN」, 「文字からCharactor~」NHK BS1、2020.5.10放送
6. 「重力という言葉を作った男 日本は科学をどう受け入れたか?」、ガリレオX、BSブジ、2015年6月28日

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