嘘つきは誰だ!:古代遺跡から発掘されたガラケーの謎を追う

ミステリー

 Pinterestを見ていたら、不思議な画像を見つけました。

 これは何だろう?


 調べてみると、オーストリアの13世紀の地層から出土した遺物のようです。2016年頃に話題になったらしい。

 そして、2017年に、これは芸術家の粘土細工のオブジェで、本人の知らないうちに勝手に遺跡から出土という嘘が広まったという記事が出ました。2017年解決済みの話題です。そうとも知らずに、2018年以降も謎として書いているライターがいますが、その内容は読む前から分かります。

 今日は、この謎を追います。

 えっ? 何の謎?  もう解決済みじゃないの?

 今回のターゲットとなるのは、この嘘の情報を垂れ流したメディアはどこなのか、そして、情報が伝わっていく過程でどのように情報が改ざんされたのかという謎です。

 やってはならないことに手を染めている連中を炙り出します。今日は「ミステリー」カテの記事です。

 記事のタイトルは「嘘つき」。しかし、誰も嘘をついていないとしたら、それはそれで怖い、と思いませんか。

初出の情報を追う

 日本でこの情報を最初に紹介したのは、話題の面白ニュースサイトの「秒刊SUNDAY」です。

 2015年12月26日に、『【古代ハイテク過ぎ】800年前の携帯電話がオーストラリアで発見される!』という記事を配信しています。

 同日、『ニコニコニュース』にも同じ記事が掲載されています。この謎について知りたい方はリンクからご覧下さい。

 『秒刊SUNDAY』に記事を投稿したのは、「秒刊ライター:たまちゃん」というライターです。この人は、出典をしっかり示しています。ちなみに、この後に雨の後のタケノコのようにパクリサイトが同じ記事をパクっていますが、元の出典は記載されていません。モラルのない連中のようです。

 その出典がこちら。

 出典とされているのは、2015年12月24日付けの『Disclose.tv』というサイトの “Aliens? 800-Year-Old Ancient ‘Mobile Cell Phone’ Found In Austria” という記事です。この記事を書いたのは、[Magnuson]というハンドルネームを使っているアメリカ人です。

 日付を確認すると(時差を考慮すると)、「秒刊ライター:たまちゃん」は[Magnuson]さんの記事が投稿されてすぐに日本に紹介したようです。恐るべしアンテナの高さ! たまちゃん! 

 [Magnuson]さんは、他人がYouTubeにアップした不思議動画を集めて勝手に配信している人で、それなりに人気があるようです。

 [Magnuson]さんの記事にはYouTubeが貼られています。それがこれ。


 Source: YouTube, “ANTIGUA TABLILLA EN FORMA DE CELULAR”, 995,386 回視聴, 2015/03/07

 このYouTubeの投稿者は、 [MEXICOGEEK]さんです。

 この話題は日本のたくさんのサイトで紹介していますが、不思議なことに金太郎飴の記事しか見つかりません。だれも不思議に思わないのでしょうか。YouTubeの動画のナレーションがスペイン語だということを!

 管理人はスペイン語は分かるので、ナレーションが何を言っているのかは分かります。ではどんなナレーションなのか。

 気になりますか。実は、全く期待外れのナレーションで、結局何も言っていないのです。

 内容は、[Magnuson]さんの記事そのものです。しかし、彼の記事には重大な過ちがあります。それは、「13世紀」の部分。スペイン語では、”siglo 13 antes de cristo” と言っています。これって「紀元前」という意味です。

 つまり、13世紀の地層から見つかったという[Magnuson]さんの記事は間違いで、動画では、「紀元前13世紀」の地層と言っているのです。

 ここまでで、日本のサイトが引用した[Magnuson]さんの記事は、完全にYouTubeの動画のみの情報で書かれていることが分かります。

 残念なことに、この話題を日本に紹介した「たまちゃん」もスペイン語はできないようです。さらに、オーストリアをオーストラリアと書くなど、情報の正確性には無頓着な人のようです。また、日本のサイトで「800年前」などと書いている人たちは、出典をちょっと書き換えただけの3分で書いたパクリ専門のライターの記事であることが分かります。

 動画がスペイン語なのが気になります。今度はもっと古い記事を探してみます。すると下の記事を見つけました。

 [Despierta al futuro]というスペイン語サイトの[Extraño: Encuentran tablilla con forma de teléfono celular procedente de la antigua Babilonia ]というタイトルの記事です。配信は、2015年2月24日です。

 これによると、遺物が出土した遺跡は、「Fuschl am See, Austria(フシュル・アム・ゼー)」としています。

 そして、出典としてURL「http://es.sott.net/article/36063-Extrano-Encuentran-tablilla-con-forma-de-telefono-celular-procedente-de-la-antigua-Babilonia」を挙げています。「SOTT」というサイトのスペイン語版です。しかし、このリンクに該当するページは既に削除されているようで見つかりません。

 「SOTT」というwebサイトは、いわゆるオカルトサイトではなく、様々な分野の世界中の出来事などを紹介するサイトのようで、英語、スペイン語など11カ国語で配信しています。

 問題の記事は、「SOTT」からは削除されているか、あるいは元々存在しない記事だった可能性があります。「SOTT」のアーカイブにもないし、webのアーカイブでも見つかりません。存在しなかった可能性が濃厚です。

 「SOTT」の記事にはニュースソースなどを記載しているので、それを確認したかったのですが、できません。

 どうやら、このねつ造記事を書いたライターは、「SOTT」の記事であるかのようにニセの出典リンクを貼り、権威付けに使っているように思います。

 その証拠に、「SOTT」の記事であれば、出典として英語版の「SOTT」へのリンクをあげる人もいるはずですが、おかしな事に、出典として挙げられている「SOTT」のリンクは全て同じで、しかもスペイン語版「SOTT」です。

 オーストリアの遺跡から発掘されたという古代の遺物がスペイン語でしか紹介されておらず、YouTubeもスペイン語というのもおかしな事です。

 このように見ていくと、記事ねつ造ライターが絞り込めてきます。

 次に、最初の配信者を特定します。

 ネット上にこの記事が最初に登場するのは、前述のように2015年2月24日です。ここで不思議なことがあります。

 最初にこの情報を2015年2月24日に発信した[Despierta al futuro]というサイトの[Extraño: Encuentran tablilla con forma de teléfono celular procedente de la antigua Babilonia ]という記事ですが、おかしな事にYouTubeの動画が貼られています。

 ところがこの動画が投稿されたのは、2015年3月7日です。記事より11日後に動画がアップされたことになります。それなのに記事には動画の写真と動画が埋め込まれている。記事にコメントがいくつかあり、この時期のコメントは二つです。同じ投稿者の中身のないコメントです。コメントを後で偽造して、記事の直下の日付に入れたのでしょう。

 つまり、[Despierta al futuro]の投稿日の日付はフェイクだと考えられます。アーカイブで確認すると、実際の投稿日は2015年4月2日だろうと思われます。ただし、アーカイブのタイムラグがあるので、確証は持てませんが。

いや、もっと古い記事を発見。

 「TOP SECRET MX」というサイトの”Ooparts: Celulares en Mesopotamia y Babilonia?“ という記事があります。この配信は、2015年2月23日です。上の記事より1日早い。

もともとの画像はどこから? 造ったのは誰?

 この謎の遺物は、オーストリアのKarl Weingärtner氏(カール・ヴァインゲルトナー)により2012年に発表されたアート作品で、画像は彼のFacebookに販売促進を目的に投稿されたものですが、”あるサイト”が遺跡から発掘されたとのフェイク記事を流したらしい。このことは、Wikipediaに書かれていました。

 Wikipediaに『Babylonokia』という見出しで掲載されています。このWikipediaの項目が作成されたのは

 ”Babylonokia”と名付けられたこの写真のオブジェクトは、Karl Weingärtner氏(カール・ヴァインゲルトナー)により2012年に発表されたアート作品です。写真が撮影されたのは、2012年1月6日です(Wikimedia)。

 ところで、Wikipediaに掲載されると、それが真実かのように思い込む大馬鹿者がいます。そして、その誤った情報を発信してしまう。だから”大馬鹿者”なのですが・・・。この情報がおかしいと気がつかないのでしょうか。管理人には不思議に思えます。

 ネットの情報は疑いましょう。特に、Wikipediaの情報は。

ヴァインゲルトナー氏は、古代世界から現在への情報伝達の進化を提示するために、この芸術作品を粘土を使って製作しました。

 この記事は執筆途中です。続きは後日書きます。

 次は、この動画をアップした[MEXICOGEEK]さんとは誰なのかを調べることにします。