クフ王のピラミッド:各層の石材の大きさに驚くべき秘密が?!

古代の謎・歴史ヒストリー

 最初に書きますが、この記事は書きかけです。とても長くなるので途中段階でアップします。この記述が消えた時点を最終稿とします。

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 ギザ台地にそびえ立つ大ピラミッド。管理人が初めてその前に立って感じたことは、やはり『でかい』ということでした。

 次に感じたのはピラミッドの傾斜が思っていたよりもきついということ。眼前に迫る大ピラミッドは、まさに「そびえ立つ」という言葉がピッタリです。


  Photo: Nekoshi, なんでも保管庫

 大ピラミッドは、建造者の名前から「クフ王のピラミッド」、あるいはギザ台地の三つの大きなピラミッドの中でも最も大きい第一ピラミッドとも呼ばれています。

 大ピラミッドについては、その内部構造や建造方法など未だに多くの謎に包まれており、世界中から最も注目を集めている歴史的建造物の一つと言えるでしょう。

 大ピラミッドの建造方法については以前の記事で書いたので、今回は全く別の視点から大ピラミッドの謎について書きたいと思います。

建設中のクフ王のピラミッド

 その視点とは、『石材の大きさ』です。

 「あぁ、それなら知っているよ。最下層が高さ1.5m、最上部が50cm程度で、上に行くに従い使われている石材の大きさが次第に小さくなるんだよね。」と思った人も多いのではないでしょうか。

 その情報は「嘘」です。定説は疑ってかかりましょう。

 大ピラミッドが現代人にとって魅力的なのは、あのような巨大な建造物をどうやって造ったのか、また、4500年も前の構造物がなぜ崩壊もせずに現在まで残っているのか、など現代科学でも解けない、あるいは説明できない未知の部分が多く残っているからでしょう。

 大ピラミッドについて、書籍やネットで見かける記述は『驚くべき精度で造られた』や『誤差がほとんどなく』、『ピッタリの数値』など、ピラミッドが緻密な設計の元に造られ、現代科学から見ても驚くべき精度で造られているというものでしょう。でも、それって本当でしょうか。

 そのような主張をしている人たちに聞きたいのは、『有効数字はどう考えているのか』ということ。大ピラミッド建造時に使われた基本尺、1キュービットをセンチで表した時の有効数字は小数点第何位までなのか、ということ。この議論を抜きに精度の話はできません。有効数字による誤差の検定抜きに『驚くべき精度』など言える訳がありません。

大ピラミッドの諸元

 先ずはじめに、大ピラミッドの構造諸元を整理しておきましょう。数値は、高さ、底辺についてはWikipediaを用いますが、それ以外は計算で算出しました。

 この算出根拠は、過去記事「世界遺産:ギザの三大ピラミッド(Giza Necropolis その2)」をご覧下さい。

 石灰岩の比重を2.6としている人がいますがそれはない。比重2.6の岩がどれほど重いものなのか知らないで書いているようです。なお、わかりやすく比重と書いていますが、実際には単位体積重量(t/m3)です。その違いが分かりますか。岩石の粒子の重さはここでは役に立たないので、単位体積重量を用います。そもそも比重では大ピラミッドの重量は計算できません。

 大ピラミッドの正確なサイズの測定は、W.M. Flinders Petrieによって行われ、1883年に”The Pyramids and Temples of Gizeh”という彼の書籍で公表されました。

 後になって、J.H. Coleが専門的な調査を行い、その時の計測結果は、1925年、カイロのGovernment Press誌発行の書籍”Determination of the Exact Size and Orientation of the Great Pyramid”で公表されました。

 これらの計測データの多くは、1977年、Peter Lemesurierによる”The Great Pyramid Decoded”に収録されました。(出典1)

大ピラミッドの石材の大きさの謎

大ピラミッドに使われている石材の大きさは、上で示したように、平均で一辺が0.95cmの立方体であろうと推測されています。

 大ピラミッドは現在、頂上が201段目で、その上に202段および203段目の石材の一部が残っています。このため、現存する大ピラミッドの段数は201段という値が一般的です。全体では210段であったと推測されています。

 現在の頂上201段目の石材の高さは56.4cm。基底部である1段目は148.8cmです。

 大ピラミッドの一段目に使われている石材は大きなものが用いられており、頂上付近には高さ50cm程度の小さな石材が使われていることから、頂上に行くに従い、小さな石材が使われた、・・・と思い込む人がいるようです。

 「一を知って十を知る」と粋がっているのでしょうか。

 発想自体はよいのですが、それは検証しなければ単なる憶測に過ぎません。この検証のプロセスをすっ飛ばして持論を展開する人がいるので、多くの人が欺されてしまいます。

 大ピラミッドを構成する全201段の石材のそれぞれの高さは、実際にはどうなっているのでしょうか。

管理人も欺された『世界ふしぎ発見』の描写

 2015年3月14日に放映された『世界ふしぎ発見』で、クフ王のピラミッドに登頂し、頂上からのリポートに成功した、という内容の番組が放送されました。

 ピラミッドの登頂は、遺跡の保護と安全確保のため1983年禁止されており、それ以来、エジプト政府の許可を得て日本人と日本メディアが登るのはこの時が初めてなのだそうです。エジプト考古学者の河江肖剰氏がエジプト政府の許可を得て大ピラミッド登頂が実現したようです。

 番組では、大ピラミッド頂上の様子や、そこからの展望が撮されており、かなり貴重な映像だったと思います。

 番組の中で、河江肖剰氏が各段の石材の高さを計測しながら登っていく様子が映し出されています。よく覚えていないのですが、このように各段の高さを緻密に計測するのは初めてだとのコメントがあったような気がします(うろ覚えなので間違っているかも)。

 この計測シーンを観ていて管理人が感じたのは、・・・いつものように誤差についてでした。「おいおい、こんな荒っぽい測定方法では水準測量の計測誤差と視準誤差が大きくなり、データが使えないよ!」。このような計測方法では、石材の高さを合計してもビラミッドの高さにはなりません。あくまでも各段の石材の大きさの測定です。

 (ここでことわっておきますが、管理人は河江肖剰氏のファンです。番組を観ていて、河江氏の人柄に惹かれファンになりました。その後、ナスジオの記事も読み、熱烈なファンになりました(笑)。)

 河江肖剰氏の計測方法では、データとして使えない。これが管理人が番組を観ていて感じたことでした。でも、大ピラミッドの場合には高さが正確に計測されているため、誤差をキャンセルする方法もあるので、この計測方法でもミリ単位の精度は出せそうです。

 河江肖剰氏が計測した生データをネット上で探したのですが見つからない。公表されていないようです。

 大ピラミッドの各層の高さはどのようになっているのだろう。興味が湧きます。しかし、ネットで探しても見つかりません。
ふと、「計測データがないなんて、やはり、おかしい!」と思いました。大ピラミッドについては様々な計測がこれまでにも行われているはずです。ピラミッドの各段の計測データがない筈がない!

 そこで、英語で検索すると直ぐに見つかりました。これまでに二人の研究者が大ピラミッドの各層の石材高さに関する詳細な計測データを残しているようです。以降、このデータを用いて、大ピラミッドにおける各層の石材の大きさの違いの謎に迫りたいと思います。

大ピラミッドの各段の高さはどうなっているか

 大ピラミッドの各段のサイズをグラフにしたものが下の図です。横軸が1~201段までの段数、縦軸が各段の石材の高さを表しています。

 このグラフから読み取れる情報としては、以下のような内容ではないでしょうか。

① ピラミッドの高さが高くなるにつれて、次第に石材の大きさが小さくなる分けではなく、所々で急激に大きくなり、その後だんだん小さくなる。この繰り返しが見られる。

② 段の途中で石材サイズが急激に大きくなるケースは10ヶ所以上確認できるが、だんだんと大きくなるというケースはない。

③ 全体的に見れば、上にいくにつれて石材サイズが小さくなる傾向にある。

 以上の特徴から、各層の石材サイズは偶然そうなったものではなく、計画的に変えられているように見える。

 全201段の平均高さは68.4cmです。この平均値を超える段数は71段で、残りの130段は平均値以下の高さしかありません。

 石材のサイズは、どの大きさが一番多いのか、サイズ別の分布を調べてみましょう。
 これは度数分布で見てみましょう。

 ここで、元データの補正を行います。現在のピラミッドの高さは、201段目で138.74mとして算出します(この値が203段目(つまり現存する石材の最大高さ)の高さの可能性もあり)。元データにおける各段の累計値は137.47mであり、1.27mの差があることから、これを各層の値に按分する。

 石材高さの最大のものは1段目の150.2cm、最小値は171段目の50.0cm。

 度数分布表から分かるのは、石材のサイズが50cmから100cmというレンジに集中しており、高さ1mを超える大きな石材はわずか9段に使われているだけで、ほとんどないということです。さらに、1m以上の石材の段を除いた石材高さの平均値は65.7cmになります。

 最も多く使われている石材サイズのレンジは、50cm~80cmまでで、全体の81%がこのサイズに収まります。

 石材のサイズは、概ね50cm~80cmで切り出したということでしょうか。大ピラミッドのサイズの正確さを考えると、”概ね”という概念は当てはまらないように思います。つまり、50cmの石材は50cmとして切り出した。80cmの石材は80cmとして切り出した、ということです。

 もしそうであるならば、各段ごとの石材の高さの違いは、厳密に設計通りだったと考えることができます。そして、繰り返し現れる突然サイズが大きくなるという特徴についても、何らかの理由がありそうです。

大ピラミッドの石材サイズ度数分布

ピラミッド単位キュービット

 キュービットという単位が頭をよぎります。大ピラミッドの各部位の計測結果から1キュービットは0.5236mとされているようです。大ピラミッドの各サイズを説明するのに便利なことから、この値を基準に大ピラミッドが建造されたと考えられています。(管理人の計算結果では、1キュービット=0.5235mとするとピラミッドの大きさが整数の値になります。)

 例えば、大ピラミッドの傾斜路の幅は1.04mですが、これは2キュービットになります。また、ピラミッドの底辺は正確に440キュービット、高さが280キュービットになります。

古代の石切の技術

 石材の切り出し誤差はどのくらいでしょうか。それを知るには石材の切り出し方法を考える必要があります。

 日本で石切の技術が急速に発達したのは、城の石垣造りが始まった戦国時代と考えられています。それ以前は、自然石をそのまま利用した野面積みや土塁でしたが、織田信長の築城に石垣が使われるようになり、くさびを打ち込んで石を割る方法が用いられるようになります。これにより、石切場から自由な大きさに石材をカットできる技術が急速に発達したようです。

 戦国時代と言えば16世紀。もっと以前に石切の技術はなかったのでしょうか。

 実はありました。奈良県橿原市白橿町にある花崗岩の巨大な石造物『益田岩船』がその好例です。

 この巨石は、東西約11メートル、南北約8メートル、高さ約4.7メートル(北側)の台形状で、重量は約160トンと推測されています。


Source: Wikipedia, 「益田岩船

 この巨石は、古墳の石室として使うために切り出されたものの、亀裂が入ったために放置されたという説が有力なようで、テレビの番組でも採り上げていました。

 160トンの岩を500mほど離れた場所にある古墳を建造する場所まで運ぶつもりだった分けで、巨石の切り出しよりも運搬技術の方が注目されます。

 写真からも分かる通り、石切の技術は優れており、センチ単位の加工が可能であったことは間違いありません。もちろん、この巨石は5、6世紀頃のものと考えられるので、大ピラミッド建造の時代とは大きくかけ離れていますが、石切の技術自体は同様な方法が採られたようです。

 石を切るには、「石の目」を読み、それに沿う形でライン上に数個のくさびを均等に打ち込んでゆき、切り出す石の自重を使って、くさび周辺のひび割れを切り出しライン沿いに導き、割る。

 瀬戸内の石切場の作業状況をテレビで見ましたが、概ね上で述べた方法で石を好きなサイズに切り出すことができるようです。日本の石切場では鉄製のくさびが使われていますが、エジプトでは、木製のくさびを打ち込み、それに水をかけて木の膨張力を使って石を割ったそうです。

石材の高さとステップ

 大ピラミッドの石材の高さが各段で大きく異なる。さらに、上に行くに従いだんだんと小さくなる訳ではなく、突然大きなサイズになる。それが周期的に起きているように見える。

 これは、どう解釈すればよいのでしょうか。

 実は、石材の高さが高いということは、ステップが広いということを意味します。

 下の図で説明します。

 大ピラミッドの大きさは、底辺と高さが決まっています。するとピラミッド外縁の傾斜角が決まります。エクセルでは、以下の式で計算します(単位は”度”で算出)。

 傾斜角 = DEGREES(ATAN(高さ/(底辺長/2))) = 51.841度(51度50分28秒)

大ピラミッド傾斜角

 石材の高さによって、ステップの幅が決まります。
ステップの幅(B)の平均は53.7cmで、最大値は1段目の116.9cm、最小値は187段目の39.3cmです。

 最小のステップが39.3cmということは、ちょうど大人の男性の肩幅くらいしかないことになります。足を踏み外せば奈落の底まで真っ逆さま。

 ここで着目すべき点は、ピラミッドの傾斜角との関係で石材の高さよりもステップ幅が小さくなるということです。これがどういうことかというと、下のような石材運搬方法はあり得ないと言うことです。


Source: Carlos Eduardo Rodríguez Varona, “Hypothesis of Construction of the Pyramids of the Valley of Giza“, WORLD-MYSTERIES.COM

 イラストはステキなのですが、この方法ではステップの幅が足りません。

 「絵に描いてみる」ということはとても重要なのですが、ステップの幅までは考えが及ばなかった?
この案を考えた人はこのイラストを描く段階でステップの幅が足りないことに気づいていたと思います。気づいていながら自説を公表したということでしょう。

  大ピラミッドの各段の高さとステップ幅(画像をクリック)

石材の高さの違いとステップの意味の解明

 さて、上述したように、ピラミッドの各段の石材の高さは、上に行くほど小さくなる傾向にはあるものの、突如、高さの大きな石材が使われています。そして、それは、一段だけではなく、数段にわたり高い石材が使われている。

 そして、石材が高いと、それをピラミッド既定の傾斜角に合うように積むためには、その段の石材全体を奥に引っ込める必要がある。つまり、ステップの幅が大きくなるということです。

 次に、全201段の石材の高さのグラフを見ると、突然、石材の高さが大きくなるところが10カ所以上あります。これは何を意味するのか。

 管理人は、ステップの幅を確保するための工夫ではないかと考えました。

 上で説明したように、ステップの幅(B)の平均は53.7cmです。しかし、この幅では作業が困難な場合、ステップの幅を広げる必要があります。そのためには、大きな(高さの高い)石材を積むことで、ステップ幅を広げることができます。


(再掲)

 全201段のステップ幅の平均は、53.7cm。1段目を除いた平均ステップ幅は、53.4cmです。

 最初にステップ幅が大きくなるのは、19段目で、石材の高さ96.8cmに対してステップ幅が76.1cmになります。ピラミッドの高さが17.92mの地点です。ここでは、その下の18段目も高い石材が使われており、ステップ幅で見ると、17段目の55.9cmに対して、18段目(62.1cm)、19段目(76.1cm)と広がっています。つまり、17段目を基準にすれば、18段、19段で合計26.4cm幅が広がったことになります。これはちょうど0.5キュービットになります。(0.264m÷0.5235m/キュービット)

 このことから、この段の石材を積むにあたり、どうしてもこの幅のステップが必要だったと考えられます。

 次の変化点は、35段目と44段目。ピラミッドの累計高さでは、30.16mと38.15mの地点です。

 ここで目を惹くのが、35段目から49段目までの石材の高さが他の層と比較してかなり高くなっていること。それまで66cm位の石材高さだったものが、100cm越えもある80~100cm台の高さの石が連続して使われています。

 

トンネル仮説と二重らせん構造

 フランス人建築家ジャン・ピエール・ウーダン氏の提唱する「ピラミッドは内部トンネルで建造された」とする仮説は、とても説得力があり、管理人は、大ピラミッドは彼の仮説が示すように建造されたと考えています。(過去記事『世界遺産:ギザの三大ピラミッド(Giza Necropolis その6)』参照。)

 ウーダン氏の内部トンネル仮説は、一定の高さまでは傾斜路で盛り立て、途中から、傾斜角4度、延長1600mのらせん状のトンネル通路を造るというものです。

 では、この延長1600mのトンネルでどのくらいの高さまで石材を運べるのでしょうか。

 エクセルで計算すると、111.6mという値になります。(1600 x sin(4°))

 ピラミッドの高さは、146.59mです。トンネルは頂上までは作れないので、頂上より10m下までトンネルを造って石材を運んだと仮定すると、(146.59m – 10m -111.6m = 24.99m)、つまり、約25mの高さまではトンネルではなく、通常の斜路を使って石材を運ぶことになります。

 ウーダン氏のトンネル仮説はCGで見ることができます。ウーダン氏が監修したCGなので彼の考え方がCGの中にそのまま盛り込まれているはずです。

 管理人は、トンネルのサイズに着目します。トンネルを造るために、何段の石材を使っているのでしょうか。CGを見ると8段必要であることが分かります。石材の平均高さは68.4cmなので、0.684 x 8 = 5.47m。約5.5mの高さになります。

 トンネルはピラミッドの表面からどのくらい内側に造られたのでしょうか。CGを見ると、表面の化粧石を除いて8個分内側なことが分かります。石材を正立方体と仮定すると、上で示した高さと同じ値約5.5mとなります。

 ピラミッドの内側5.5mの位置に、傾斜角4度、総延長1600mのトンネルを造ることは本当に可能なのでしょうか。この計算はちょっとめんどくさい。暇な時にやってみます。

【出典】
1.”DIMENSIONS AND MATHEMATICS OF THE GREAT PYRAMID