三峡ダムが決壊の危機にあるというニュースを流している人達は、たったひとつの科学的データすら提示せずフェイクを垂れ流している

こだわってみる

 三峡ダムが決壊の危機にある、という記事がたびたび流されていますが、すべてフェイクです。YouTubeでも同じ内容の動画をアップしている人もいますが、すべてフェイクです。

 記事を書いている人は、そもそもダムについての知識が皆無なようです。三峡ダムがどのタイプのダムなのかも知らずに、アーチダムのイメージ写真を貼り付けているのには呆れてしまいます。

 更に、堤体のコンクリートが手抜きだとか、地盤が弱いところに造られたとか、意味不明の記述が見られます。

 三峡ダムは、重力式コンクリートダムです。この形式のダムは、コンクリートの重さで水圧を支えています。つまり、堤体に使われるコンクリートは重ければ良いのです。

 重力式コンクリートは大量のコンクリートを用いるため、セメントの発熱で膨張、その後の収縮によりクラックが発生する恐れがあります。これを避けるため、堤体中央部は、セメントの量を減らし、貧配合のコンクリートが使われます。手抜きではありません。

 地盤については、そもそも、重力式コンクリートダムは、地盤の弱いところには建設できません。地盤が弱いと書き込んでいる人は、何を根拠に書いたのか原典を示して欲しいものです。そんなものは存在しないと思います。

 重力式コンクリートダムが決壊するのは、左右岸の岩盤との接合部分の欠陥、あるいは、地下水圧によりダム本体が持ち上げられ、重心がミドルサードから外れた場合ダムが転倒するケースが想定されます。

 つまり、三峡ダムが決壊するとしたら、地下岩盤に水みちができ、アップリフトが発生する場合でしょう。しかし、そのような兆候を示す調査研究データを見たことがありません。岩盤内に設置されている間隙水圧計の値がどれだけ変化しているのでしょうか。そのデータなくして議論すること自体ナンセンスです。

 フェイク記事をアップしている人は、アーチダムと勘違いしているように思います。アーチダムについて書かれたどこかの記事から引用して(重力式である)三峡ダムのリスクを書いたつもりなのでしょうが、ダムの知識がないために支離滅裂な内容になっています。ど素人が書くとこの程度ということでしょう。少し知識のある人から見ても笑ってしまう内容です。

 記事の執筆者は、ダム本体に穴が開いて、それが原因でダムが崩壊する、というイメージが頭にあるようです。無知とは恐ろしい。だから、手抜きでコンクリートの品質が劣るだとか、1万カ所のひび割れが発生しているだとか、何を言っているのか理解不能な記述になっています。

 どうせフェイクニュースを書くのであれば、外国から輸入した産業廃棄物・プラスチックゴミをセメントに混ぜて使ったとか、もっと大嘘を書くとアクセス数を稼ぐことができるのに、中途半端な内容になっています。

 更に、環境問題にまで言及していますが、もともと環境問題についての知識がないため、意味不明な書き方になっています。三峡ダムって何のためのダムなのか、まずはそこから説明すべきでしょう。すると、洪水調整容量という具体的な数値が見えてきて、長雨によるダム上流の長江への流入量の変化の話になる。そんな基本的なことをすっ飛ばして「三峡ダム崩壊」というキャッチーな見出し記事を書くことだけが目的化した内容には、はっきり言ってうんざりです。

 三峡ダムの心配など不要で、そんなことよりも、確実に発生する南海トラフ地震の心配でもした方が役に立つように思います。

 Google Earthで三峡ダムの堤体の変異(変位)が確認されたというフェイクニュースが流されましたが、これは、画像処理上のエラーだとしてGoogleが否定しました。

 いずれにしても、出典を一切示さない記事は、単なるライターの作文だと考えるのが正しい見方だと感じます。

 三峡ダムについては、過去記事に書いているので、関心のある方はお読みください。フェイク記事の典型的な見本です。これが賞を受賞するなどお笑いの世界です。

 「クーリエ・ジャポン【2020年ベスト記事】三峡ダムの記述に呆れてしまった

 三峡ダムの諸元を見ていて驚くのがダムの貯留水の標高です。何メートルだと思いますか。ダム下流、長江はまだまだ続きます。

 三峡ダムの通常水位は、標高175.0 mなのだそうです。しかし、ダム堤高(海抜標高)は185メートルの筈。ダムの高さは基礎掘削の部分から測るので周辺地山地盤の高さとは違いますが、それでもダム下流側の水位標高は62メートル程度のようです。たった60メートルの海抜標高しかないのに、この後、揚子江は直線距離で1000Kmを流れて東シナ海に注ぎます。これでは洪水が頻発するのはやむを得ないでしょう。洪水を止める方法など思いつきません。ダム下流域の集水面積がとてつもなく広いため、三峡ダムひとつで揚子江の洪水対策ができるかのような報道がおかしいことに気づきます

 揚子江の洪水対策など人智を越えています。あまりにも標高差がなさ過ぎます。もう、水を貯められる場所もありません。いや、場所はいくらでもありますが、広大な土地が使えなくなり現実的ではありません。結局、揚子江周辺の人達は洪水とともに生活する運命にあるのでしょう。

 もしかしたら、環境活動家がすばらしいアイディアを提案し、住民が安心して生活できる環境を提供してくれるのでは? 文句ばかりで何一つ解決策を示さない環境活動家。それが商売なのでしょう。

 現実的な洪水対策としては、揚子江の蛇行を修正して、洪水を早期に下流に流下させるとともに、旧河川敷を遊水池として掘削し、その残土を堤防建設に使う。でも、それって、誰がやるの? 絵は描けても現実的ではありませんね。だから難しいのです。

 中国政府が何もしないために問題が放置されている、と思っている人もいるようですが、では、どうしたらよいのでしょうか。管理人には対策が思いつきません。青森から鹿児島まで水路を掘ると言ったらあなたはどう思いますか。その過程で発生する様々な環境問題をどう解決しますか? できないのですよ。フェイク記事に欺されないように。

ついでに書くと

 三峡ダムは重力式コンクリートダムなので、ダム天端を水が越流しても決壊することはありません。そういう設計になっています。

 ところが、アース式ダムやロックフィルダムの場合、天端を越流すると必ず決壊します。そういう構造だからです。というか、そんなことは想定外ということです。

 ダム否定派の人達は、ダム建設が遅れたために発生した人的被害について知らぬ存ぜぬの姿勢です。自分が人を殺したという自覚がないようです。ダムが悪いということを生きがいにしている人達がいますが、ダムのおかげで普段の生活を送れていることには無関心で無責任な人達のように感じます。

 世界の河川と比較すれば、日本の河川は滝のようだと言われます。水源と海との距離が外国と比較してとても短いからです。このため、ダムを建設して水を貯めなければ、日本は水不足の国になります。

 それは違うと反論する人もいますが、その反論はデタラメです。ダムがあってさえ、干ばつの年には水不足が話題になります。ダム不要論の人達は、こんな時は沈黙するだけの卑怯者です。

Image: Google Map,   三峡ダム 右手が下流。本体は3つの区画に分かれ、両岸に発電用のゲート、中央に洪水吐がある。

設計洪水量

中国网絡电视台というサイトが2010年8月3日にリリースした記事に以下のような記述がありました(現在は閲覧できません。)。

 以下、Geminiで和訳して引用。

三峡ダムの最も重要な機能は、洪水を防ぐことです。7月20日、三峡ダムは、運用開始以来最大の洪水、そして長江の水文記録上3番目に大きな洪水を経験し、その性能が試されました。この洪水において、三峡ダムは科学的な運用により、洪水のピークを削り、ピークをずらすことで、下流への影響を最小限に抑えました。これにより、沿岸住民が大きな被害を受けることを防ぎ、三峡ダムの防洪効果が実証されました。
長江流域の深刻な洪水対策の状況下で、三峡ダムの防洪能力について、詳しく知らない人々から疑問の声が上がっています。特に、なぜ洪水期に水を放出するのか、ダムの防洪基準や効果、そして水量の調整方法などについて、様々な誤解が広がっています。そこで、私たちは専門家に話を聞き、多くの人々が疑問に思っている点について詳しく解説してもらいました。

「N年一遇」 という言葉は、統計学的な概念で、ある規模の洪水が平均してN年に一度起こる確率であることを示します。

記者が三峡ダムの総合的な水管理を行う機関から得た情報によると、「万年一遇」「千年一遇」「百年一遇」といった言葉は、単なる比喩ではなく、厳密なデータに基づいた基準があるそうです。

三峡ダムの副総エンジニアである趙雲発氏によると、「万年一遇」の洪水は、ピーク時に毎秒11万3000立方メートルの水が流れるほどの規模であり、「千年一遇」の洪水は、毎秒9万8800立方メートル、「百年一遇」の洪水は、毎秒8万3700立方メートルといった具合に、それぞれの言葉に具体的な数値が対応しているとのことです。

これらの数値は、単なる推測ではなく、国家が定めた設計基準に基づいています。宜昌の観測所での水位データや、過去の洪水に関する記録などを統計学的な手法で分析し、導き出された数値なのです。趙氏は、このように説明しています。

中国の水力発電の専門家である張博庭氏は、「百年一遇」の洪水は、必ずしも100年に一度しか起こらないわけではないと述べています。これは、ある地域でその規模の洪水が起きる確率が1%であることを意味します。「百年一遇」の洪水は、平均すると100年に1回起こると考えられますが、実際には数年の間に何度も連続して起こる可能性もあります。

「洪水防止能力:自助と共助」

最近、三峡ダムの防洪能力が「万年一遇」「千年一遇」「百年一遇」から「年々低下している」という噂がインターネット上で広まっていることに対し、中国長江三峡集団公司的会長兼党組書記である曹広晶氏は、メディアのインタビューに応じ、以下のように述べました。「ここで重要なのは、2つの概念を区別することです。一つは三峡ダム自身の設計基準と能力、もう一つは下流域の洪水防護能力、つまり下流域の洪水を防ぐ能力と基準です。この2つの概念を理解すれば、話は簡単になります。」

簡単に言えば、この2つの概念は「自助」と「助人」に例えられます。曹広晶氏は、「まず自分自身をしっかりと守ることができて初めて、他人を助けることができる」と述べました。ここでいう「自助」は、ダム自身の安全性に関することです。曹広晶氏によると、三峡ダムの防洪基準は、千年一遇の洪水を想定して設計されており、さらに万年一遇の洪水に10%の余裕を持たせて検証が行われています。つまり、毎秒98800立方メートルの水が流れる千年一遇の洪水が来ても、ダム自体は正常に機能し、三峡プロジェクトのすべての施設が影響を受けることなく、発電を続けることができます。また、毎秒113000立方メートルの水が流れる万年一遇の洪水に10%が加わったような状況でも、ダム本体は破壊されず、三峡ダムは安全を保つことができます。ただし、一部の施設の正常な機能は影響を受ける可能性があります。

「助人」とは、三峡ダムが下流域の洪水から安全を守るための洪水調節能力、つまり下流域の洪水を防ぐ能力のことです。百年一遇以下の洪水が発生した場合、三峡ダムは枝城地点での最大流量を毎秒56700立方メートル以下に抑えることができ、分流工事をせずに、沙市の水位を44.5メートル以下に保ち、荊江河段を安全に洪水を流すことができます。もし、千年一遇の洪水が発生した場合でも、三峡ダムで水量を調整し、枝城地点を通過する流量を毎秒80000立方メートル以下に抑え、荊江分洪工事やその他の分流・貯水対策と連携することで、沙市の水位を45メートル以下に抑えることができます。これにより、荊江の南北両岸にある洞庭湖平原と江漢平原における壊滅的な災害を防ぎ、防洪目標を達成することができます。

記者が取材したところによると、ダム工事自体が稀に見る大洪水に耐えられるよう、安全性を確保するために、通常は設計洪水位と検証洪水の2つの基準が用いられています。つまり、設計洪水位に基づいて設計を行い、さらに高い水準の洪水基準を用いて検証することで、工事の安全性を高めているということです。

設計洪水位とは、ダム工事自体の洪水に対する安全基準であり、ダムが通常の運用下で許容できる最高の水位のことです。これは、ダムの安定性を計算する際の主要な根拠となります。一方、検証洪水位とは、ダムが非常事態に際して一時的に許容できる最高の水位であり、ダムの高さや安全性を検証する際の主要な根拠となります。水文学的な計算を通じて検証洪水位を算出し、様々な水工構造物の安全性検証や運用制御設計を行うことで、ダムの安全性を確保しています。

そのため、ダム自体の強度と安全性という観点から言えば、三峡ダムが千年一遇、万年一遇の洪水に耐えられるという主張は疑う余地がないと言えるでしょう。

江中下流域の洪水対策に関して言えば、千年一遇の洪水が発生した場合、三峡ダムは貯水量を調整し、荊江分蓄洪区を活用することで、下流域の水位を安全なレベルに保ち、江漢平原地域の安全を確保することができます。百年一遇以下の洪水が発生した場合、三峡ダムは貯水量を調整し、洪水を適切なタイミングでせき止めたり、放出したりすることで、枝城地点での最大流量を制御し、分流工事を行うことなく、荊江河段を安全に洪水を流すことができます。

このように、三峡ダムの「万年一遇」「千年一遇」「百年一遇」といった防洪能力は、それぞれ異なる状況に対応したものです。そのため、一部の言葉だけを取り上げて判断するべきではありません。

出典:CNTN 中国网絡电视台、「三峡工程防洪效益的误解与正读」
https://web-archive-org.translate.goog/web/20130101120121/http://news.cntv.cn/china/20100803/103253.shtml?_x_tr_sl=error&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja

設計洪水量 
1/10年 56,700m3/s
1/20年 72,300m3/s
1/100年 83,700m3/s
1/1000年 98,800m3/s
1/10000年 113,000m3/s
考えられる最大洪水量 120,000m3/s – 127,000m3/s

 以前、当サイトでは、これを計算するExcelシートを公開していたのですが、止めました。

 計算してみれば分かるのですが、結果は諸元に大きく左右されます。近年の降水量の著しい変化は、設計当時の流出率に大きく影響を及ぼしていると考えられます。1000年確率x1.1 で設計されたダムでも、現在の気象、流出解析データと比較すると、全く別のものになると考えられます。これを計算できるシートだったのですが、良心的な人ばかりではないようなので、公開を停止しました。

 数値が一人歩きするのが最も危険なこと。計算した人は、どのパラメーターが計算結果に影響するのか知っています。だから、そのパラメーターが大きく動くとき、計算結果に重大な齟齬が生じます。

 素人は、その結果だけを見て判断しますが、本来知るべきは、各パラメーターがどの程度の信頼性があるのかを知ることです。計算結果がすべてではないのです。パラメーターが変化すれば計算結果も変化します。

 三峡ダムの設計には米国のダム技術者が参加しているので、設計諸元は米国の基準に準じているのではないかと思いますが、どうなのでしょうか。設計時に使った流出率のデータや降雨データがあれば、自分でも計算できそうですが、中国のことなのでデータの入手など最初から諦めます。それほど関心があるわけでもないので。